第9回 自殺の瞬間を見てしまった

夢の中で笑いかける彼女の顔がゆっくり血に染まり…

彼女は死ぬ瞬間、私のほうを振りかえって

その日は遅くまで残業が終わらず、会社を出たのが夜11時過ぎでした。「疲れた……でも明日休みだから、ゆっくりお風呂に入って寝よう」そう思いながらいつもの通勤電車に乗ろうとしたんです。ホームに電車が入ってきて、ゆっくりと速度を落としながらこちらに近付いてきたその時。すぐ目の前に立って電車を待っていると思っていた女性が、ゆっくりとこちらを振り返り、ニタッと笑いました。そして線路に向かって進んでいき、そのままホームに入る電車に向かって飛び込みました。イヤな音を立てながら急停車する車両。騒然とするホーム。掛け付けてくる駅員。人身事故でした。

私、見てしまったんです。その人が電車に撥ねられる直前の、最後の表情を。確か30代後半くらいの、ちょっと派手で綺麗な感じの女性。でも、とてもこの世のものとは思えない、ゾッとするような笑みでした。

顔面蒼白になりながら、とりあえず改札を出て、すぐ近くにあったカフェに避難。何も考えたくなかったので、コーヒーを飲みながら、スマホでTwitterを見たり、ゲームをやったりして時間を潰しました。そして一時間半ほど経って、Twitterで「運転再開した」というツイートを見つけたので、そのまま駅まで行って、まだちょっと混んでる電車に乗って、家まで帰りました。何も考えないようにしながら……。

夢の中であの不気味な顔が

でも甘かったです。その夜、いやな夢を見ました。あの時見た、電車に飛び込む寸前の女性の顔が暗闇に浮かんで、あの時のようにニタニタと笑いかけてくるんです。そして、その顔は次第に血まみれになっていき、最後は真っ赤に染まって、表情が分からなくなっていきました。「わあああっ！」思わず叫び声をあげ、そんな自分の絶叫で夢から覚めました。身体は寝汗でびっしょり。動悸が止まりません。とにかく慌てて電気をつけました。次の瞬間。「ヒッ！」私はもう一度悲鳴を上げました。枕元に血がついていたんです。「夢じゃないの…？」パニックを起こした私は、すぐジャージに着替えてそのまま家を飛び出しました。向かった先は近所のコンビニ。とにかく外の明るい場所に移動しました。そして、そこで彼氏に電話して、泣きながら事情を話しました。彼はすぐに車で迎えにきてくれました。そして私の話を真剣に聞いてくれて、「しばらくうちに泊まりなよ」って言ってくれたんです。

そんな感じで彼氏の家に転がりこんだのですが、そこでも同じ夢を見ました。彼の腕に抱かれて少し安心した私は、そのままスーッと眠ってしまったのですが、そこでも再びあの女性が出てきたんです。でも、表情がさっきと違いました。前に見た夢ではニタニタ笑っていたのに、今度はすごく怒っているんです。憤怒の表情はまた少しずつ血に染まり、そして私はふたたび自分の絶叫で目を覚ましました。横には心配そうにこっちを見る彼の顔。そして枕元には……やはり数滴の血痕がありました。それを見た私も、彼氏も、顔面蒼白になりました。

「これはガチでヤバいな」「しかもなんだか悪化してる気が……」そうふたりで話すと、彼氏が「霊能者を探そう」と言い出し、スマホで何かを検索し始めました。「電話占いがいい。すぐに相談できるから」そう言って画面を見せてくれたのが、電話占い花染でした。「早く相談しよう」そう急かされるがまま、私はその彼に教えてもらった電話占い花染に、すぐ電話をかけました。

彼女の死の理由、それは

私を担当してくれた霊能者の先生は、電話がつながるなりすぐ異変に気付いた様子でした。「たちの悪いものに憑かれてしまいましたね」と一言。そして霊視で私の状況を鑑定してくれました。自殺の現場に遭遇してしまったことをハッキリ言い当てられ大変驚きましたが、それよりもまず、この状況はどうすれば解決するのかが知りたくて「先生、何とかして下さい。このままでは怖くて眠れません」と泣きつきました。

先生はすぐに除霊をしてくれました。少々手こずっていたようでしたが、しばらく経つと、頭の中がスーッと軽くなっていくのを感じ、やがてイヤな感じが消えると同時に、「成功しました」という声が聴こえてきました。そして一息ついた後、霊能者の先生は事情を説明してくれました。

「あなたが見たその女性は、結婚を誓った男性に裏切られ、失意のうちに自殺を決行しました。そして最期の瞬間に振りかえり、あなたを見て、たまたま自分と同じ女性だったので、自分の絶望をそのまま強烈な念としてあなたに刻みつけ、そのまま線路に身を投げました。不運なことです。そのせいであなたは霊障に苛まれることになりました。このままだと大変危険でしたから、すぐに電話して下さって本当によかったです」

とんでもないとばっちりだ。そう思いました。

そういえば……。私の家で見た夢と彼の家で見た夢で女性の表情が違ったけど、あれは何だったのか。疑問は全部聞いておこうと思い、それも先生に聞こうとしました。「あの……」そう言いだした矢先、流石と言いますか、先生のほうから説明してくれました。「その女性は恋愛のもつれで自殺を図ったので、あなたに彼がいて信頼関係で結ばれていることを知り、憎悪が噴き出したのでしょう。繰り返しますが、すぐに電話してきて本当に良かった。そのまま放っておいたら、呪い殺されていたかもしれません。とても禍々しい念でしたから……」とのことでした。そして最後に邪気祓いの軽い儀式を行ってくれて、「しばらくは何か魔除けを身につけておくとよいでしょう。由緒正しい神社のお守りか、水晶のブレスレットが良いです。あと、お風呂に入る時は湯船に塩を少々入れて下さい。塩には浄化の効果がありますから」と、アドバイスをくれました。

不幸中の幸いにも

教えていただいた魔除けの方法はすぐに実践しました。翌日、彼氏といっしょに近くの駅にあるパワーストーンショップに行って、水晶のブレスレットを購入。肌身離さず身につけています。お風呂に入る時も湯船に荒塩を数つまみ入れています。その甲斐あってか、鑑定以降、夢の中にあの女性が出てきたことは一度もありません。

不幸中の幸いといいますか、その件があって以降、私と彼氏は半同棲状態になり、そのまま縁談が進み、結婚することになりました。その女性には申し訳ありませんが、あの件のせいで私達の縁が深まる結果となったのです。これも因果の巡りというものかもしれませんね。とにかく、もう二度とあんなものは見たくありません。

（沙紀さん 30歳・大阪府）