第33回 屋敷を守る先祖霊
田舎の古い屋敷に潜む、和服を着た老婆の霊

私には多少霊感があるようで、時々妙な気配を感じることがあるのですが、はっきり霊を見た経験はそれほど多くありません。その数少ない経験のひとつについてお話します。以前、友人の実家にお邪魔した時のことです。私は大学生で、サークルで仲良くなった彼女とよくふたりで遊ぶようになり、二年生の夏休み、彼女の実家まで一緒に行ったんです。彼女の実家は瀬戸内の海沿いにあって、新幹線と電車とバスを乗り継いで行きました。私は実家が東京にあって都会っ子だったので、本物の田舎に行った経験がなく、とてもワクワクしました。
彼女の実家はわりと大きなお屋敷でした。二階建ての古い日本家屋で、私がイメージする「田舎のお屋敷」そのもので感動したのを覚えています。彼女の家は元を辿ると地域一帯の地主さんだったようです。今は普通の一般人として暮らしているそうですが、近所のお年寄りからは「あそこの家のお嬢さん」と呼ばれているそうで、彼女は自分がお嬢様扱いされるのがどうも気恥かしい様子でした。そんなお屋敷に一週間ほどお世話になったのですが、玄関を入った瞬間、やはりというか、妙な気配を感じました。「やっぱり古い屋敷には色々あるのだろうな」と思いました。自分の霊感については自覚があったので、わざわざそんなことを言って気を悪くさせるのもよろしくないと思い、妙な気配については黙っていることにしました。
その気配は私が移動するとついて回ってくるような感じでした。でも、家の外に出るとついてこなくなって、彼女のご両親の車で観光に連れてってもらったりした際には、まったく感じなくなりました。でも、家に帰ってくると、玄関を入った瞬間にその気配を感じるようになるのです。決して悪い感じではありませんでしたが、やや警戒されているような、監視されているような感じでした。 そして、明日帰るという前日の晩、私はついにその気配の正体を見てしまいました。夜中にどうしてもトイレに行きたくなって、寝室を出て廊下を歩き、トイレに向かっていたところ、廊下の片隅に和服を着たお婆さんが立って、こちらをじっと見ているのです。一目見てこの世のものではないと分かりました。そして、私をずっと監視していたのはこの人だったんだと分かりました。おそらくこの家に縁がある、彼女のご先祖様か何かだろうと思い、私はこちらをじっと見るお婆さんの霊に軽く会釈をして、そのままトイレに行きました。帰る時にはもう姿はありませんでしたが、気配はしていました。
その翌日、布団を片付けていたら、客間の壁に掛かった写真が目に入りました。それは古い白黒写真でした。その写真の中のやや左側に、昨夜廊下で私をじっと見ていたお婆さんがいたんです。私が写真をしげしげ眺めているのに気付いた彼女が「それはね、うちの昔の写真だよ。戦後すぐくらいに撮ったものらしいよ」と教えてくれました。戦後間もなくの写真に写っていたお婆さんですから、やはり現在この世にいることはないでしょう。きっとあのお婆さんは死後もなお、自分の愛する家を守るためにここにいるのだな、と思いました。私をずっと監視していたのは、きっと私がよそ者だったからでしょう。家を出る際、彼女のご両親にお礼を言いながら、私は心の中であのお婆さんにも「お邪魔しました。お世話になりました」とお礼を言いました。
(香穂さん 26才・東京都)