第34回 釣り人の心霊体験談
バス釣り中に体験した不気味な出来事

趣味で長年バス釣りをしています。ルアーなどの疑似餌を使って、池や沼などにいるブラックバスという魚を釣るスポーツフィッシングの一種です。ブラックバスは早朝や夕方などに活性が上がるため、まだ夜も明けないうちからひとりで車を出して郊外の沼や農業用貯水池などに行き、釣りを楽しんでいます。思い立った時に行きたくなる性格と、釣り仲間がもう既婚者ばかりであることもあり、ひとりで行くことのほうが多いです。「ひとりで夜の沼や水辺によく行く」と言うと、霊感のある人からは「危険だからやめたほうがいい」と言われますが、長年の趣味なので、なかなかやめられそうにありません。
実際、気味の悪いものを見た経験も何度かあります。
数年前、池の真ん中で踊る白い人を見ました。その日は家から少し遠くにあるポイントに足を伸ばそうと思い、深夜3時に家を出て、車で1時間半ほど掛けて沼へ向かいました。かなり辺鄙な場所にあるので、他のバス釣り客はひとりもいませんでした。到着したのは確か空が白み始めた頃だったと思います。車を停め、懐中電灯を照らしながら藪の奥に向かって伸びるけもの道を進むと、やがて沼が見えてきました。普通の人が見たら、藪の奥にあるどんよりとした不気味な沼だと思うかもしれません。でも、そういう場所こそ爆釣が期待できるので、私はワクワクしながらリュックを開け、道具を取り出していました。すると、沼のほうから「ポチャン」という水音がしたんです。最初はバスが跳ねたのかと思いました。でも違ったんです。沼の真ん中付近で、何か白いものがしきりにバタバタと踊りのようなものを踊っていたのです。それを見た瞬間、えもいえぬ嫌悪感が走り、背筋がザワッとしました。「見てはいけないものを見てしまったかもしれない」と思い、私は取り出しかけた道具を全てしまい、すぐにその場を離れ、帰ることにしました。帰路では特に何もありませんでしたが、その後、私は原因不明の体調不良に苛まれ、3日ほど高熱を出しました。
あと、入水自殺する霊を見たこともあります。それはとある橋の下にあるポイントでした。時刻は昼過ぎでしたが、天気は小雨が降っていて、やはり普通の人なら薄気味悪いと思うような状況だったと思います。とてもよく釣れるポイントで、その日は普段であればなかなか釣れないような大物を3匹も釣った記憶があります。気分がよくなった私は、橋の欄干にもたれかかって小休止をしていました。するとやはり、その時も水音がしたのです。前回の踊る白い人を見た時よりもっと大きくて、「バシャーン!」という音でした。でも、水面を見てみると、それらしき波紋がまったく立っていないのです。聞き間違えではありません。首を傾げていると、突然、私の目の前を、何か大きな黒い物が横切るように落下していきました。そして再び「バシャーン!」という大きな水音が響いたのです。でも相変わらず辺りには物が落ちたような痕跡はありません。これはよくない場所かもしれない、と嫌な気分になり、すぐに荷物を片付けて撤収することにしました。撤収する背後でまた「バシャーン!」という音が聞こえましたが、私はもう決して振り返らないようにしました。後々その橋を調べたところ、やはりというか、飛び降り自殺が数件起こっている、曰くつきの橋でした。
他にも、妙な人影を見たり、気配を感じたりしたことが何度かあります。そういうものを見たり感じたりした時には、どれだけ釣れるポイントであってもすぐに撤収するようにしています。何故か、よく釣れる場所のほうがそういう体験をすることが多い気がします。以前、「魚がよく釣れる場所は霊に遭いやすい」というのを何かで読んで、とても納得しました。
(孝典さん 38才・群馬県)