第35回 夜の高速道路の路肩に立つ人
高速道路に立っている人を見たら、直後に事故現場が…

子供の頃、夏休みにお婆ちゃんの家に向かう車で体験した話を書かせていただきます。行楽シーズンだったこともあって、夜のうちに空いている高速道路で移動して朝に到着する、という形で向かっていました。小学生だった私は最初、夜のドライブという非日常的なシチュエーションに興奮していましたが、夜12時を回る頃になると、次第に眠くなってきて、気がつくと後部座席で寝ていました。
運転席には父、助手席には母が乗っていて、車内には深夜ラジオが流れていました。2時間くらいして、車のガタガタという振動で目を覚ますと、助手席にいる母も眠っていて、運転席の父がひとりでハンドルを握っていました。「お父さん眠くないの?」と聞くと、「お父さんが寝たら大変だろう、お父さんは眠くないよ」と言うので、わたしは眠気覚ましのガムを一枚、包みを開けて父に差し出しました。父はそれを咥え、噛みながらハンドルを握り続けていました。
それからしばらく、私は自分の座席の横の窓を眺めていました。夜の高速道路は他にドライバーもあまりいなくて、時々大きな長距離トラックが走っているばかりで、ちょっと不思議な感じでした。流れる景色をボーッと見ていると、路肩に人が見えたんです。赤いシャツを着たおじさんとおばさんでした。ふたりは何もない路肩にただ棒のように立っていました。向こう側から見えて、すぐに後ろのほうに流れていきました。「お父さん、いま人が見えた」運転席の父に話しかけると、父はまったく気付かなかったようで、「こんな夜中の高速に人がいるわけない、幽霊かもしれないぞ」と少しおどけた感じで言ってきました。
私はとても怖がりだったので、「幽霊かもしれない」と言われて急に怖くなりました。後ろを振り返って確認しましたが、もうその人はまったく見えなくなっていました。すると、それからしばらくして、今度は自動車事故の現場を通りかかったのです。路肩に乗用車とトラック、そしてパトカーが止まっていて、一台はめちゃくちゃに壊れていました。「居眠り運転だな」父がぼそっとそう呟きました。事故現場もすぐに後ろに流れていきましたが、夜の高速道路の路肩に事故車が止まっている光景はとても怖かったのを覚えています。
翌朝、お婆ちゃんの家について、荷物を運んでひと段落していると、居間のテレビでニュースが流れていました。高速道路の事故のニュースでした。「これ夜中に見たなあ」父がぼそっと言っていました。居眠り運転のトラックが四人家族の運転する車に衝突して、運転席に乗っていた父親と、助手席に乗っていた母親が亡くなった、とのことでした。「あんたも高速道路は気をつけなさいね」そう祖母に言われ、父は「おう」と返事をしていました。私は、その直前に見た、路肩に立っていたふたりを思い出しました。父には見えなかったという、赤いシャツを着たおじさんとおばさん。もしかしてあれは本当に幽霊で、自動車事故で亡くなったふたりだったのでは。赤いシャツはもしかして血だったのでは。気付いた私は、あまりの恐さにシクシク泣き出してしまいました。
その体験以降、私は妙なものを見るようになりました。半透明の人や、身体の一部が欠損した人が、時々なんの脈絡もなく立っていたり、歩いていたりするのです。霊を見たことにより霊感がついてしまったようで、30代になった今でも、時々妙なものを見ます。
(真沙子さん 35才・東京都)