第46回 川の真ん中に立つ黒い影
夜中にランニングをしていたら、川の上に人が立っていました

実家から数十分ほど歩いたところに大きな川が流れています。そこの河川敷は近所の人たちの憩いの場になっており、春には桜が咲き、とても綺麗な景色になります。思春期の頃、私はちょっと太っていたので、ダイエットのため、夜中にその川までランニングをして帰ってくるのが日課でした。年頃の女子が夜中に出歩くのはちょっと良くなかったかもしれませんが、なるべく開けた大通りを走るようにしていたので、特に危ない目に遭うこともありませんでした。でも、一回だけ怖い目に遭ったことがあります。変質者に襲われたとか、柄の悪い人に絡まれたとかではありません。見てはいけないものを見てしまったのです。
その夜も、私はいつものように運動用のジャージに着替え、ランニング用のスニーカーを履き、午後9時過ぎに家を出ました。そして川に向かっていつもの道を走り始めました。徒歩数十分ですが、走ると大体片道十五分、往復で三十分少々という感じで、軽い運動には最適な距離です。その日は気分が乗っていたので、ちょっと走り足りないなと思い、川を渡って向こう側まで行って引き返そうと思いました。そして橋を走っている時、ふと横の川面を見たところ、なんと人が立っていました。流れる川の上に、人の形をした黒いシルエットが、まるで地面の上にいるかのように立っているのです。顔や表情などは暗くてよくわかりませんでしたが、どうやらこっちを見ているようでした。それが分かった瞬間、背筋にゾッと寒気が走りました。そして、橋を引き返してすぐに帰りました。
その夜は怖くて眠れませんでした。あの影が追いかけてきて部屋までやってくるかもしれないと思うと、睡眠どころではありませんでした。でも幸いなことに、翌日以降、特に妙なことは起きませんでした。念のため近所の神社に行って神主さんに事情を説明して霊が憑いていないか確認してもらいましたが「憑いていないので大丈夫です」と言われました。でも、「川は境界なので、特に夜は注意したほうが賢明です。しばらく渡らないようにしたほうが良いでしょう」と注意されました。「もう一度見たら憑いてくる可能性がある」とも言われました。それから川には行っていません。
(知香さん 24才・東京都)