第50回 最期に会いに来た知人
昔の知り合いが自殺したのですが、死亡推定時刻にバーで見かけました

若い頃、毎晩飲み歩いたりクラブで遊んだりしていたのですが、その時の知り合いでひとり、壮絶な転落人生を歩んだ人がいます。当時の彼はベンチャー企業を設立し、経営状態もよく、なかなか羽振りがよさそうでした。毎晩夜の街で湯水のごとくお金を使い、仲間内でもお金持ちとして有名でした。でも、彼が経営する会社の業務内容は詐欺まがいのビジネスで、いろんな人を騙してお金を巻き上げていたのです。
そのうち周囲に悪評が立ち始め、彼の周りにはお金目当ての人ばかりになりました。会社の経営状態もみるみる悪化していったそうです。彼のことは数年前から知っていたのですが、当初は良くも悪くもギラギラして精力的な人だったのに、だんだん生気が無くなり、顔つきも暗くなり、なんだか影が薄くなっていきました。
ある時、行きつけのバーに彼がやってきました。普段は顔なじみの私達を見かけると挨拶をしてくるのですが、その時は無言でカウンターの端に腰かけ、俯いて座ったままじっと動かず、しばらくしてお酒も飲まずに静かに帰っていきました。その数日後、彼が自殺したという知らせを受けました。最初に聞いた時はショックでしたが、同時に「やっぱり…」という気持ちを覚えました。詐欺まがいの会社であぶく銭を稼いでいた跳ね返りが来たのでしょう。
しかし、彼の死亡推定時刻を聞いてみたところ、不可解なことに気づきました。亡くなったのは数日前の夜で、ちょうど行きつけのバーで見かけた頃だったのです。その席には私含め数人の知り合いがいたのですが、みんな彼を見ています。気づいた時には背中にゾワッと寒気が走りました。今思えば、カウンターの端に腰かけていた彼にバーテンさんが話しかけなかったことなど、いろいろ妙なことがあります。おそらくあの時彼はもう死んでいて、最後に私達に会いにきたのかもしれません。
(葦花さん 30才・東京都)