第72回 電波が狂った部屋
私の部屋はテレビが映りません

今から10年ほど前の話です。大学を機に上京した私は、家賃を削りたくて安いアパートを探していました。何軒か回るうち、気になる物件が一つ。大学の最寄駅からもほど近く、風呂とトイレもきちんとついていて、築20年以内にも関わらず、なんと家賃4万円! 迷わず入居を決めましたが、不動産の担当者が「一つ問題があって…」と言いにくそうに口を開いたのです。「この部屋だけ、テレビが映らないんです」。しかしこんなに安い物件、逃す手はありません。どうせ日中は大学で、夜はバイトするつもりだったので、部屋には寝に帰るだけだと思った私は、なぜテレビが映らないのかという理由など気にも留めず、さっそく契約を進めました。
入居からしばらく経って、バイト先の先輩にそのことを話すと、「本当に映らないのかな?」と言われました。確かに試したことはなかったなと思っていると、「俺のテレビ持っていくから、ちょっと試してみようぜ」と先輩が楽しそうに言うので、その場の流れで承諾しました。バイト後、先輩はさっそく自宅からテレビを持ってくると、てきぱきと私の部屋で配線作業を開始。難なく接続を終えると、「じゃあ付けてみようぜ」と電源ボタンを押しました。しかし、「ザーーーー」と砂嵐が流れるばかりで、やはりきちんと映りません。なんだ、やっぱり駄目だったなと思っていると、先輩が急に「うわあああっ」と叫んだんです。「どうしたんですか!?」と聞くと、先輩はひどく怯えた様子で「女が…女が…今…画面に…」と言います。私には何も見えなかったのですが、先輩に嘘をついている様子はありません。その後すぐ、先輩は自分のテレビを抱えて逃げるように帰っていきました。
住み心地もよく、特に心霊現象が起きたわけではありませんでしたが、先輩に何度も「引っ越した方がいい」と勧められ、結局次の更新を待たずに解約してしまいました。世の中には、知らない方がいいこともたくさんあるのかもしれません。
(太郎さん 30歳・東京都)